毒舌紳士に攻略されて
なのに坂井君は私を離してくれるどころか、「嫌だね」とまるで子供みたいな台詞を言いながら抱きしめる力を強めた。

さっきよりもさらに密着する身体に、ドキドキ感は増すばかり。
そんな私に追い打ちをかけるように、私の耳元でそっと囁いた。

「なんとも思っていない男ならさ、普通そんなこと気にしないよな?……ってことは佐藤も少しは俺に気があるんだろう?」

「……っそんなことっ」

「あるさ。……なきゃこうやって黙って抱きしめさせてくれないだろう?それに佐藤、すっげ心臓の動きが速ぇし」

「それはこんなことされたら誰だってドキドキしちゃうから!」

「俺だからだろ?ドキドキするのは」

ひとつ言い訳すれば、倍になって返ってくる。
私の考えなど一切否定する言葉が――。

言い返したいのに言い返せない。
なにを言っても、きっと坂井君にはさっきのように言い返されてしまうのが目に見えている。

「違う……から」

それでも認めてしまうわけにはいかない。
黙って抱きしめられているのも、こんな風にドキドキしちゃっているのも、相手が坂井君だからってことも。


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