もうこれ以上噛まないで
私がタツキに出会ったのは高校3年の冬。
就職も決まり、近所の居酒屋チェーンでバイトをしていた私、橘優の上司。つまりは若くして店を任された、その店の店長。
「橘優って……両方合わせて漢字二文字かよっ」
何度も言われ飽きた定番のセリフ。そりゃあ珍しいかもしれないけれど……好きでこの名前に生まれた訳じゃないのに。
簡単でいいね~なんて言われ続けて来た過去をうんざりと思い出す。
そんな……微妙な表情の私を見つけると、タツキは深い茶色の瞳をまっすぐにこちらへ向けてこう言った。
「俺は好きだけどな。橘も優もいい漢字だし……合わさると何て言うか、綺麗って言うか……」