もうこれ以上噛まないで
そうして迎えた初めての夜。
「ねぇ……噛んでもいい?」
うわずった声で耳元に囁かれる愛する人の言葉。
「え?」
「ちょっとでいいからさ」
私はまだ……男女の行為というものを知らない。
少し大人向けの少女漫画に描かれるようなラブシーンには……そんなセリフ無かったけど。
……5つ年上のタツキが言うんだから”噛む”という行為はひょっとして当たり前の事?なのかもしれない。
それにもう、知り合ってから半年、付き合って3ヶ月。
梅雨の時期になり蒸し暑いこの季節になる頃には、恋人として優しくリードしてくれるタツキにすっかり惚れてしまっていたから。
断わるなんて事は頭に浮かばなかった。