イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
 瑠海が私の肩をポンと軽く叩くと、私を見据える。

 亮治というのは前田さんのファーストネームだ。

 私の事は見下しているけど、瑠海は前田さんには一目置いてる気がする。前田さんに対する態度は紳士的だし、礼儀正しい。

 前田さんの前で瑠海に逆らう訳にはいかず、グッと堪えた。

 でも、私の反抗的な目を見て、瑠海が私の耳元で囁いた。

「パスポートの手続きは忘れずに」

 忘れたら首だよ。

 瑠海の目は容赦なくそう言ってる。

 嫌な男。

 そう思った。

 このまま黙ってはいられない。

「犬じゃありませんから」

 気づけばフランス語で瑠海に切り返していた。

 パリに二年住んでいた事もあるから、今でも簡単な日常会話ならできる。
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