イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
「桃華、何ボーッとしてるの?新雪で気持ちいいわよ。行くわよ!」

「え?ちょっと待って~」

 セーラの方に無駄だとわかってても手を伸ばすが、彼女の姿はどんどん遠くなる。

 ポツンとひとり残された私。

「嘘でしょう〜!悪夢再び」

顔から血の気が引いていく。きっと今自分の顔は真っ青になっているに違いない。

 恐る恐るボーゲンで急斜面を滑るが、すぐに転倒。

 それを三ー四回繰り返し、スキーで滑って下りるのは早々に断念した。

「セーラの馬鹿!一生恨んでやる!」

 大声でアルプスに向かって叫ぶが、もうきっとセーラには届かない。

私の声が虚しく反響する。

 ここにずっといるわけにはいかない。

スキー板を外して肩に担いで歩く。

 この状態はかなり恥ずかしいが、滑れないのだから仕方がない。

 周りに人がいないのが救いだ。
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