イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
『お前は怪我はないのか?』

「うん、大丈夫」

 身体は大丈夫。

 心は傷だらけだけど……。

「ニースから飛行機に乗ろうと思うの。マスコミにはバレたくない。どうにかならないかな?」

騒がれるのが怖くて、兄に相談する。

『俺が行く。そっちは心配しなくていい。日本に戻ったらしばらくはホテルに滞在しろ』

「うん。忙しいのにごめんなさい」

『家族なんだから遠慮するな。もっと頼れよ。お前はそれで後悔しないんだな?』

兄の質問に少し躊躇いながら返事をした。

「……うん、じゃあ後で」

 電話を切ると、私は瑠海との思い出に鍵をかけた。

 彼のいない生活に戻るだけだ。

 全ては夢だったと思えばいい。

 それから、また瑠海のいる病室に戻ると、まだ彼は目を閉じたままだった。
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