イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
22、ガラスの靴はいらない ー 桃華side
『お兄ちゃんが連絡してきたけど、あんたホテル抜け出して一体どこにいるの?』

 出産間近の姉の京華が電話の向こうで怒っている。

 お姉ちゃん、妊婦なのにそんな怒ってたら、つり目の赤ちゃんが生まれちゃうよ。

 今の私にはそんな姉の声も他人事のように聞こえる。

「日本海」

 断崖絶壁から海を眺め、ポツリと呟く。

『はあ?』

 私の言葉に姉が絶句する。

 その間も、目の前の海はザッブンっと大きな音を立てて荒れまくっている。

 風は冷たくて、芯まで凍りそう。

 ここって、雲は灰色でどんよりしてるし、海は荒れてるし、私が遭難しそうになった雪山よりも寒く感じる。

 でも、今の私の心境そのもの。
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