イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
『何でクリスマスイブに日本海にいるのよ!』

「シングルベルだから」

 もう無機質な声しか出ない。

 イブに日本海にいて何が悪い。裏日本なめんな。

『親父みたいなギャグ言わないの。あんた毎年一人だったじゃない』

 そういう突っ込みは止めて欲しい。

 今は聞きたくない。

「傷心旅行してるんです。もう切るね。お兄ちゃんには適当に言っといて。お姉ちゃん、あんまり怒ると破水しちゃうよ」

『ちょっと、日本海のどこにいるのよ?もっと具体的に教えなさい』

「東尋坊」

自殺の名所として知られるその名を告げれば、姉は焦った様子で聞いてくる。

『何でそんなとこに?一人で大丈夫なの?まさか死ぬつもりじゃ……』

「大丈夫。お姉ちゃんの子供抱くまでは死ねない」

 失恋して死ぬつもりはない。

 そこまで私は馬鹿じゃない。
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