イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
 ……やだな、あそこに一緒に座るの。

 メールに気づかなかった振りして帰ろうか。

 ゆっくり踵を返し帰ろうとしたその刹那、よく知っている声が私を捕らえた。

「桃華、遅かったな」

 眼鏡越しに微笑んでいるが、この笑顔が曲者だ。

 きっと帰ろうとしたのだって感づかれている。

 さっきまでスマホを見ていたのに、身体にセンサーでもついてるのか……。

 我が兄ながら恐ろしい。

 周囲の女性が一斉に私の方を振り返る。

 見下すような視線。

 はいはい、言われなくてもわかってます。

 なぜちんけなあなたがって。

 慣れてますよ、その反応。

 生まれた時から一緒にいるんですから。

 兄といても、姉といても血が繋がってるとは思われない。
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