イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
「また、ここに戻って来てくださいね。私……前田さんが戻るまで頑張ります」

彼がここを去るのが悲しくてつい感情的になってしまう私。

 前田さんは五十代の素敵なおじさまで、部下に気遣いが出来る優しい理想の上司だった。

 美人の奥様と大学生の息子さんもいるようだし、病気を治して早く元気になって欲しい。

「今日の午後、パリ本社から新しい社長と副社長が来るから紹介するよ。若いのにやり手だから、君もいい勉強になると思うよ。君はまた新しい副社長の担当だ」

私を元気づけるように彼は穏やかな声で言うが、先のことを考えると不安になった。

「前田さんみたいに素敵な上司だといいですけど……」

 パリ本社かあ。何となく嫌な予感。

 きっと他の玉の輿狙いの秘書から何か言われるだろうな。

 外国人エクゼクティブを狙う女性社員は結構多い。

 若いのに高収入だし、外国人特有の優しさにメロメロになるのだ。
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