イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
 ここで電話を切っても良かった。

 だが、なぜかもっと彼女の声を聞きたくなった。

「桃華、フランスからの来客の件、ホテルと会食の手配を頼むよ」

『食事は……アレルギーとか大丈夫ですか?』

「アレルギーの心配はない。日本食で良いだろう。日本にも何度も来日してるし、生ものも問題ない。店は任せるよ」

『わかりました。先方への連絡はどうします?』

「それは俺からするから、予約したホテルの情報をメールで知らせてくれればいい」

『では、今日中に手配してお知らせします』

「ああ、よろしく頼むよ。ところで、どうして俺が朝のコーヒーを断ったかわかる?」

『……わかりません』

「祖母は美味しいお茶を淹れる人だった。相手の事を思って」

祖母のことを思い出しながら言葉を切る。

「マシンでいれたコーヒーが不味い訳じゃないけど、いれた人の気持ちが見えてくる。贅沢な物を要求してる訳じゃない。自分が歓迎されてるかどうか、コーヒーひとつでわかるんだよ。俺は我が儘かもしれないけどね」
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