イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
「桃華・相澤です。どうぞよろしくお願いします」

 私が挨拶すると、新しい副社長がぷっと吹き出して、フランス語でポツリと呟く。

「昔、日本で飼ってた犬と同じ名前」

その言葉にカチンときた。

 私がフランス語わからないと思って言ったんだろうけど、やっぱりこの男、気に食わない。

 確かに犬に多い名前だけど、笑うことないでしょう!

 『桃華』は、両親が姉の名前の『京華』と同じ『華』という字を使いたくて適当につけた名前だ。

適当というには理由がある。

 隣の家の犬の名前がモカだったから、私にその名をつけたらしい。

 響きが可愛いから問題ないと両親は思ったみたいだけど、私はこの名前があまり好きじゃない。

 犬やコーヒーじゃないんだから。

 自分で名前を選べるなら、もっと普通の名前にしたかった。

 少しブスッとしながら新副社長を見ると、彼がクスッと笑って手を差し出してきた。
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