絶対に逃げられない部屋



顔を水に何度も沈めていると、30分ほどで美和は水中で意識を失ったので、濡れた顔を拭いてあげてベットに寝かした。




さすがにここまですれば、彼女は自分がした愚行と浅はかさに気づいて、反省するのではないかと期待したが、目を覚ました彼女の反応は僕の予想を裏切った。



彼女は目を覚ますなり、もう耐えられないと顔を抑えて泣き出したと思うと、自分の荷物をカバンに詰めだした。





どこに行く気だ。と聞いても彼女は口を閉ざしたままだったので、近くに置いてあった懐中電灯で、彼女の頬を思いっきり殴りつけた。






普段は顔といった、外から見える部分を殴ることはないのだが、その時はかっとなってやってしまった。





それでも彼女はひるむことなく、悲しい表情で「さよなら」と言って家を出て行った。






それが事故前に見た美和の最後の顔だった。





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