双子壁
「ねぇ、ヴァジム」
林檎の蜜が付いたナイフを布で拭うヴァジムに、ナージャが声をかける
小さな手は拳を作り、地面へ視線を落としながら言葉を続けた
「ナージャは、いつママとパパに逢えるの?」
切なげにヴァジムを見上げたナージャは、今にも泣き出しそうな表情をしていた
それを見たヴァジムはナージャの頭に手を置き、安心させる様に微笑んだ
「大丈夫
俺が直ぐに逢わせてあげるから
だから今は沢山食べて、沢山皆と遊んで思い出を作ると良い
そうしたらナージャの両親に逢った時、色んな話が出来るだろう?
それは素敵な事だと思わないか?」
「…うん」
小さく頷いたナージャの心情は、周りの子供達も抱いている感情であった
いや、幼い子供達だけではない
12歳のドミートリィさえ、18歳のロマンでさえ祈っている事なのである
(…きっと、俺も)
ヴァジムがナージャの頭から手を離した時、スモール・バックヤードの外から戸を叩く音がした
それに反応したロマンが慎重に確認してから扉を開けると、小鹿や生け簀を担いだ仲間達が中へ入ってきた
「ヴァジム、戻ったぞ」
額の三本傷が経験を物語る青年が、小鹿をスモール・バックヤードの中心に放り投げる
他の者も狩りで手に入れた食糧を次々にそこへ置いた
「イーゴリすごーい!
鹿を狩ってきたぁ!」
はしゃぐ子供達に顎を仰け反らせて笑うイーゴリに、ヴァジムは真剣な赴きを向けた
「イーゴリ
今夜子供達が眠った後に皆を集めてくれ
…頼むよ」
立ち上がって晩飯の準備を指揮するヴァジムに、イーゴリは獣の様な目付きでその背中を見つめた
「…大体解ってるっつーの」