双子壁
ナヴェールフの空は暗く、壁の向こうのスヴィズダーの灯りが眩しい
少年達はそんな灯りを見上げ、自分の両親を思い描く
ヴァジムの話を聞く今もそれを見上げた者がいた
「…ヴァジム
もしもマカロフ経典の戦いに勝ったら、僕は父さんや母さんに逢えるの?」
顔の右部分が痛々しく爛れているその少年の名前はエイキム
ドミートリィと共にナヴェールフに来た者だった
「…あぁ
俺達の半身を打ち倒したら、星にいける
そこで俺達は初めて自由になれる」
神経が死んで動かない口許が、微かに上がる
それは確かに喜びの表情であった
(………)
ヴァジムが何かの違和感を感じ取った時、イーゴリが少年の肩を抱きながら壁を指差した
「俺らはあの壁を越える!
そん時にはたらふく飯食って、綺麗な水飲んで、そしたら王をブッ倒そうぜ!!」
イーゴリの掛け声に誰もが目を輝かせ、明るい未来を創造する
この戦いで幸せになれると、確かな確信を夢見ていた
だが世界はそう甘くはなかった
ナヴェールフに住む子供はスモール・バックヤードだけではない
その地の中にはスモール・バックヤードの様に幾つかの集落が存在しており、非道な方法で生き残っている者もいた
ヴァジム達の敵は自然や動物だけではなく、同じ人間の少年・少女でもあったのだった
エイキムの傷も、北の位置に陣地を構える少年に付けられたものである
そして、ナヴェールフには王政に因り数百の兵士が監視していた
子供達が逃げない様にする為が本来の目的ではあったが、残虐な大人の兵士は子供をいたぶって楽しんでいた
エーヴァはその犠牲となり、10歳の頃に非道な兵士に強姦されかけたが、それを助けたのは当時8歳のヴァジムだった
今でさえヴァジムが戦う姿を見た事がいない者がいる中、エーヴァが最初で最後に見たヴァジムの戦闘はあまりに残虐な状況だったと言う
自分よりも一回りも二回りも違う大人の男を、破顔の表情で刺し殺したのだ
少女は彼に命を助けられた安堵とは別に、恐怖を覚えた