最低王子と恋の渦
「俺のことそんなに嫌いなんだね」
頭上から突然声が聞こえ、私はビクッと肩を跳ねさせた。
恐る恐る見上げると、そこには爽やかな笑顔を浮かべた鬼がいた。
「み、三鷹……くん」
「ショックだよ。俺はこんなに田中さんのこと慕ってるのに」
「慕ってるじゃなくて弄んでるの方が合ってるんじゃないかな…」
「田中さんってネガティブなの? 心外だよ」
そう言いながら三鷹くんは私のお弁当箱から卵焼きを一つつまみ上げた。
そのままそれを口へと運ぶ。
「ネガティブっていうか事実じゃん…」
「この卵焼き美味しいね。田中さんのお母さんと結婚したい」
「やめて家庭まで壊さないで!?」
三鷹くんは「あはは」と笑いながら自分の席、つまり私の隣の席へと座った。
「…三鷹くんっていつもパンだよね」
そう言ったのは菜々だった。
菜々は三鷹くんの机の上に置いてあるメロンパンをみつめる。
「言ってなかったっけ? 俺って父子家庭なんだよ」
「「え!?」」
「言っとくけどごめんとか謝らないでよ。
もう慣れてるし特に生活に困ってないから気を遣われることなんてないし。ていうか謝られるとうざい」
その淡々とした口調に、私も菜々も言葉が出なかった。