最低王子と恋の渦
お化け屋敷の中に入ると、真っ暗な狭い廊下が待ち伏せていた。
壁にはぼんやり薄暗い電気が点いており、かろうじて何があるか見えるくらい。
このお化け屋敷は廃病院をテーマにしているのだとか。
もう怖い。
「前とだいぶ変わってるなー」
友也は私の前を歩きながらそんなことを呟いている。
友也は怖くないのだろうか。
私は既に帰りたい。
怖いのは割と好きだけどお化け屋敷となると別物なのだ。
「…あ、手術室…」
壁に付けられた看板の文字を読み、私はゴクリと息を呑んだ。
友也は「怖っ」とか言いつつ余裕そうである。
ほんとに克服してやがる…。
と、
「っ、ぎゃあ!!」
不意に首元に生温い風が当たった。
まるですぐそばで息を吹きかけられたような感覚。
私は思わず叫んでしまい、気付くと涙目になっていた。
「こ、こわ!」
「美乃大丈夫か?」
「だ、大丈夫だけど…怖過ぎるっ」
必死な顔で友也に訴えると、友也は一瞬ポカンとしたあと豪快に吹き出した。
「あははっ、美乃必死だなぁ」
「あ、当たり前じゃん!克服してないんだからっ」
「…ハー、そうだよなー、怖かったら服掴んでていいぞ?」
笑い疲れたように息を吐いて、友也は無邪気な笑顔をこちらに向けてきた。
…こういうとこが安心出来るんだろうな…。
ふとそんなことを思いながら、私はお言葉に甘えて友也の服を後ろから掴ませていただいた。