最低王子と恋の渦
いつもと変わらない表情なはずなのに、私を見下げるその姿はなぜか妙な威圧感を放っている。
そんな彼に少し怖じ気付いた。
「ねぇ田中さん。今どんな状況か理解してる?」
静かな声なのに、私には彼が怒っていると直感で思った。
「え?」という間抜けな声が私から自然と漏れると、三鷹くんはハァと溜息を吐く。
「家には俺と田中さんしかいないんだよ。なのに部屋行く?って聞かれて何するの?ってよく聞けたね」
「うっ…」
「もし俺が欲求不満だったらその時点でアウトだよ。押し倒されてるって」
「よ、欲求不満て…」
うう…やっぱり怒られた…。
まあ確かに考え無し過ぎたよね…。
きっと三鷹くんも友達として心配して怒ってくれてるんだと思うし、私はなんだかんだ言いつつ素直に反省する。
…でもぶっちゃけ、三鷹くんじゃなかったら家に誘われても行ってないと思うけどさ。
「無防備にもほどがある」
「ご、ごめん…」
「川平とかは馬鹿だからそれでも大丈夫だったけど、前ナンパされた和久井の兄達みたいな奴らはそれだと危険過ぎるからね」
ちゃっかり友也のこと馬鹿って言うよね三鷹くん。
「これからはちゃんと気を付けるよ…」
「うん。そうしてもらえるとありがたいよ」
ニッコリと涼しげに微笑む三鷹くん。
…ん?ありがたい?
ありがたいって、なんで三鷹くんがありがたがるんだ?
あ、心配しなくて済むってこと?
いちいち注意するのがめんどくさいからって感じかな。
「…でもさ、そもそも三鷹くんはほんとは何するつもりで部屋行こうとしたの?」
「別に何も考えてなかったよ。ただリビングより部屋の方が居やすいと思って」
えぇー…そういう理由…?
私的にはリビングも部屋も三鷹くん家だから居辛いのには代わりないんだけどね…。
「どうする?行く?」
美少年が私を見下ろしてそう聞いてくる。
行かない理由もないし、私はコクリと頷いてソファから立ち上がった。