最低王子と恋の渦
――用を足し、私はゆっくりとトイレから出る。
カラオケルームがたくさんある廊下が伸びていて、私は皆のいる部屋へと向かい出した。
今頃、三鷹くんと藤本さんは何を話してるんだろう。
もしかしてもう…復縁してたり…。
あー。
もうやめ。
考えるのやめよう。
きっと気分転換のつもりで菜々は私を無理に連れて来てくれたんだ。
…楽しもうっ。
私はパチンと両頬を軽く叩いて活を入れる。
と、
「あ、美乃ちゃんだ~」
そんな声が聞こえて、私は振り返った。
そしてギョッと目を丸くする。
「なっ…」
「久しぶり~」
そう馴れ馴れしく私の肩に腕を回してはニヤニヤと顔を近付けてくる短髪の背の高いこの男。
見覚えがある。
和久井くんのお兄さんだ。
以前ファミレスでナンパしてきたあの人だ。
「なんでここに…っ?」
「んー、直哉が言っててさー。絶対来んなって言われてたんだけど美乃ちゃん来るってんなら行っちゃうよな~」
「えぇ……なぜ私…」
「あの三鷹秀吉って奴?あいつのこと調べてみたら興味湧いてね」
ニコッと人懐っこい笑顔を見せる。
さすが兄弟、この笑顔は似てるな。
…いやていうか、なんで三鷹くんを…?
「まあ詳しいことはあとで話すからさ。とりあえずここ出よーぜ」
「えっ、あの…っ」
ま、まずい。
このままだとどこか人気の無いところに連れてかれるかもしれない…!
「に、荷物部屋に置いてるんで!ここで待ってて貰えませんかっ?」
「無理。だって美乃ちゃんそのまま戻って来ねぇつもりだろ?」
バレてるー…。
逃げ道を失い、「えっとえっと」と頭をフル回転させる。
どうしよう…っ。
「あのっ、ほんとすみません…!戻らせて下さい…っ」
「もしかして部屋に秀吉くんいんの?」
「いえ…いませんけど…」
「ならいいじゃん」
何も良くないですけど!?
彼は肩を組んだまま強引にカラオケから出ようと出口へ歩き出す。
私の抵抗なんて全く効いてない様子で。
だ、駄目だって。
このままじゃまずいって…!
もういっそのこと走って逃げ去ろうかと思っていた、
その時である。
「……あ」
ガーッと自動ドアが開かれ、ピタリと和久井くんのお兄さんは止まる。
私も一瞬思考が停止してしまった。
「……」
目の前に立つ美少年は、いつもの無表情で私と和久井くんのお兄さんを見つめる。