最低王子と恋の渦
「あ、何すんだよテメェ」
「田中さん助けただけ」
チッと舌打ちを三鷹くんにしたあと、お兄さんは残念そうに眉をハの字にして私に視線を移した。
…う、少し罪悪感。
「美乃ちゃんそんなにやだった?」
「…え、えっと…私あんまりベタベタ触られるの好きじゃなくて…」
ペコリと頭を下げると、お兄さんは素直に「そっかー」と呟く。
強引ではあるけど、悪い人ではないんだろうな…。
と、
不意にパッと三鷹くんは掴んでいた私の手を離した。
…?
「つか秀吉くんさぁ、すんげぇモテるんだって?」
「…秀吉くんとか気持ち悪いからやめてよ」
「そんな君が狙ってる美乃ちゃんを奪ってやったらどんな顔すんのかなーって思って~」
「性格悪いね」
…いやそれは三鷹くん完全にブーメランですけど。
ていうかそんな理由でかよ!?
そもそも三鷹くんは私のこと狙ってないし!
「あっ、でも美乃ちゃん気に入っちゃったからってのもあるけど」
そうニコッとこちらに笑顔を向けてくるお兄さん。
う、嬉しくない…。
ていうか私のどこを気に入ったと言うのだ。
「あーー!兄貴ぃ!!」
突然聞こえた大声に振り返ると、そこには和久井くんが明らかに怒った表情をして立っていた。
タタタとこちらに駆けてきた和久井くんはそのままお兄さんに詰め寄る。
ご、ご立腹だ。
「よぉ、直哉」
「よぉじゃねーっての!絶対来んなっつったじゃん!」
「だって美乃ちゃんがいるって言うから~」
「あっ、田中さん兄貴に何かされた!?…って、なんで三鷹までいんの!?」
忙しいな。
和久井くんは頭にハテナマークを浮かべて困惑している様子で。
三鷹くんはそれに構わず再びお兄さんを見た。
「ていうか田中さんのこと名前で呼ぶなよ」
「は?なんで秀吉くんが怒るんだよ」
「別に。不愉快だから」
はぁ?と眉間にシワを寄せるお兄さんからスルリと視線を逸らし、今度は戸惑っている和久井くんを見た三鷹くん。
「ごめん和久井、田中さん連れて帰るから後はよろしく」
「…え、え!?ちょ、帰んの!?」
そんなことを言い出した三鷹くんは、更に戸惑っている和久井くんと「ちょっとー」とだるそうな声を上げているお兄さんを残してスタスタと歩き出してしまい、
私はただその後を慌てて追い掛けた。