最低王子と恋の渦
部屋番号を三鷹くんに聞かれて教えると、案の定三鷹くんは先程私がいたカラオケルームまで真っ直ぐ来て、その扉を躊躇なく開いた。
部屋では盛り上がっていたであろう空気から一変し、突然のことに皆がピタリと固まる。
そしてこちらに集中する視線。
次の瞬間には皆のどよめく声で部屋中が埋め尽くされたのは言うまでもない。
「み、三鷹くん!?」
「なんで!?」
口々に飛び交う言葉に全く反応しない三鷹くんは、キョロっと部屋を見渡して菜々を見つける。
菜々は右手にお菓子、左手にジュースを持っており、未だに食欲は満たし続けていた様子。
「ごめん、澤村さん。田中さんの荷物取ってくれない?」
「うい」
パクリと右手のお菓子を口に放り込むと、菜々は隣に置いていた私の荷物を拾い上げて三鷹くんに渡した。
「ありがとう」と言いながら荷物を受け取った三鷹くんは、騒いでいる皆に改めて向き直って。
「ごめんね、田中さん連れて行くよ」
「…………ど、どうぞ?」
マイクを持っていたその男子がかろうじて三鷹くんの発言に反応し、了承を得た当の三鷹くんはペコリと軽く頭を下げて部屋を出て行く。
私も慌てて皆に頭を下げて、三鷹くんの後を追った。
部屋を出る前にチラリと菜々と友也を見ると、二人は私に向かって笑顔で親指を立てていて、
なんだかむず痒い気持ちになったような。
そしてそのままカラオケの出入り口に向かうと、和久井兄弟と再びご対面。
しかし既に二人は落ち着いているようだった。
「あ、三鷹ー!」
「和久井ありがとう」
「…えっ、あ…お、おう!バイバイ!」
「ば、バイバイ和久井くんっ。ごめんね…!」
私も言うと、和久井くんは元気に手を振って見送ってくれた。
それをありがたく思いつつ、チラリと隣に立つ背の高い彼に目を向ける。
「……っ」
お兄さんのニコッと微笑んだ顔を最後に見て、私はカラオケを後にした。