最低王子と恋の渦
「話も済んだし、カラオケの方行っていいよ!」
「…え?でも、」
「いいの!田中さんが心配なんでしょ?」
藤本さんは「さぁ立って」と俺を急かし、促されるままに俺は荷物を持って席を立った。
…確かにずっと嫌な予感はしてた。
もちろん今も。
「…ごめん、藤本さん」
「ううん、こちらこそ今日は来てくれてありがとう」
「お金払っておくから」
「ええっ、いいよそんな…、」
「それくらいさせてよ」
そうにっこり笑ってみせると、藤本さんは納得したように笑ってくれた。
…藤本さんのおかげで少し田中さんの気持ちが知れたんだ。
田中さんがそんな風に思ってくれてるなんて、知らなかったから。
「じゃあね藤本さん。ありがとう」
「うん、こちらこそっ」
そう最後に言葉を交わして、俺はそのテーブルを後にした。
…田中さんが今誰を想っていようと、――もしかしたら誰も想ってないかもしれないけど、
俺は自分で思う限りのことをするだけだ。
絶対誰にも譲らない。