からくれなゐ
「大の男が二人掛かりで娘を手籠めにしようたぁ、情けねぇなぁ」

 どこかのんびりとした声と共に、石畳を踏む下駄の音が近づいてきた。
 娘を羽交い絞めにしていた男が、慌てたように声のほうを見る。

「あんまり無駄に人斬りはしたくねぇが……。見過ごすわけにもいくめぇ」

 声の主は、そう言って、三人から少し離れたところで立ち止まった。
 まだ若い、小柄な青年だ。
 刀を一本、落とし差しに差している。

「な、何でぇ。引っ込んでろ!」

 娘を捕まえたまま、男が叫ぶ。
 相手が小柄な男一人と知って、安心したのだろう。
 蹲っていた男も、ようやく立ち上がった。

「お約束だね。引っ込んでろと言われて、引っ込む奴がいるかい?」

 青年は懐手のまま、どこか馬鹿にしたように言った。
 娘を捕まえている男も、今一人の男も、青年より随分でかい。
 体格も、華奢にさえ見える青年よりも、遥かに男たちのほうがいいだろう。

 だが青年には、全く恐れなど見えなかった。
 緊張感さえない。

「ということで、さっさとその娘さん放しなよ」

 相変わらず軽く、青年が言う。

「ばっ馬鹿野郎! そう言われて、素直に従うと思うのか!」

 股間蹴りから完全回復した男が、怒鳴りながら抜刀し、刀を青年に突き付けた。

「ま、それもお約束か。素直に放しゃ、痛い思いをせずに済んだのによ」

「へ。痛い思いすんのぁ、てめぇのほうだぜ」
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