からくれなゐ
 どう見ても強そうに見えない青年に言い、男は剣先を突き付けつつ、薄笑いを浮かべた。
 恐れるに足らず、と判断したのか、余裕さえ見える。

 青年は一つ息をつくと、腰の刀に手をかけた。
 ゆっくりと抜刀する。

「……痛い思いだけで済みゃいいけどな」

 鞘から抜かれた刀身が、青年の顔の前で光った。
 娘は息を呑んだ。
 いきなり、朱が目に飛び込んできたのだ。

 一瞬後には、それは刀身に映った紅葉だと知れる。
 寺は今、紅葉の盛りだ。
 気付けば辺り一面、燃えるような朱に包まれている。

 それは何も今に始まったことではないのに、何故今急に気付いたのだろう。
 娘が朱に目を奪われている間に、青年は抜いた刀を八双に構えた。

「な、何だ。妙な構えしやがって……」

 刀身を立てた八双の構えは、具足をつけたときこそ目にするが、通常の、しかもこのような広く、障害物もないところで見る構えではない。
 もっとも構えなど自在に変えるものであるから、それなりの場数を踏んだ者なら、どのような構えでも後れを取ることはないのだが。

「ふん。正眼だけが構えと思うなよ」

 青年が言い、いきなり間合いを詰めた。
 男が慌てて後ずさる。
 そして、ちらりと娘を捕まえている男へと目をやった。

 二人で同時に仕掛けようという魂胆らしい。
 意を受けて、もう一人の男も娘を突き飛ばし、抜刀した。
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