からくれなゐ
「……もうちょっと早く放してくれりゃ良かったのによ」

 ぼそ、と青年が口を開いた。
 刀を抜きあってしまうと、後に引けなくなる。
 男どもが刀を収めてくれればいいが、こいつらのほうが今更後には引けないだろう。

 初めに青年と刀を合わせていた男が、気合と共に踏み込んできた。
 青年の面を目がけて、真っ直ぐに剣先が迫る。

 青年は腰を落とすと、八双から真横に刀を払った。
 キン、と音がし、男の刀が流れる。

 次の瞬間、青年の刀が男の胴を襲った。
 右から左へ払った刀を、そのまま返して男の胴を斬り払ったのだ。
 流れるような二の太刀である。

 青年はその流れのまま、背に迫った刀を弾き飛ばした。
 もう一人の男が、背後から斬り込んでいたのだ。
 が、焦っていたのか仲間が斬られて動揺していたのか、襲ってきた男の刀は、簡単に手から離れて宙を舞った。

 タァッという鋭い声と共に、青年が上段から刀を一閃させた。
 男が動きを止める。

 一瞬だけ間があり、やがて、ぱぁっと血が飛んだ。
 首筋から噴出した血が、音を立てて辺りを染める。

 娘は呆けたように、その光景を眺めた。
 血の朱と、紅葉の朱と、夕日の朱。

 目が眩むような光景だ。
 だが、美しい、と思った。

 青年が、びゅっと刀に血振りをくれ、しゃがみこんで倒れた男の袖で刃を拭った。

「逃げなかったんかい。腰でも抜けたか?」

 納刀しながら、青年が娘に声をかけた。
 僅かに返り血が、青年を汚している。

 血が似合う、と思った。
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