からくれなゐ
「……あ、ありがとうございました」

 へたり込んだまま、ぺこりと頭を下げる。
 そして、落としていた三味線を拾い上げると、汚れた着物を叩きながら立ち上がった。

「不用心だな。こんなところ、女子一人で歩くもんじゃねぇぜ」

「急いでいたもので……」

「ま、この寺を抜けりゃ、大通りまですぐだしな。けど、そろそろ暗くなるぜ。秋の夕日はつるべ落としっつってな」

 明るく笑いながら、青年は娘の横につく。

「ついでだ。送って行ってやる」

「で、でも。よろしいのですか?」

「構うめぇ。綺麗な紅葉だ。そうさな、さっきの礼として、紅葉狩りに付き合ってくれや。そう考えりゃ、気が楽だろ」

 そう言って、青年は上に目をやりながら歩き出す。
 娘も視線を上に向けた。

 歩いていたときは気付かなかった。
 燃えるような紅葉と、夕日が目を射る。

 そろりと、娘は少し前を行く青年を見た。
 夕日に照らされて、青年も赤く染まっている。

 不意に先程の光景が蘇った。
 噴き出す血。
 それが、青年を染める。

 この人は。
 そのうち、血にまみれて四辻に倒れているのではないだろうか。

 いきなりそんな思いが、娘の中によぎる。
 娘は茫然と、冷たい風が乱す朱の中の青年の背を見つめた。
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