Trick or Treat?
すぐ近くに、由良くんの顔がある。
それも3センチくらい前に。
私は、びっくりしすぎて言葉も出ないまま一気に熱が上がって、今にも心臓が爆発してしまいそうになるくらい、鼓動が早まっていく。
「これくらいで真っ赤になってたら、これ以上のことに耐え切れなくなるよ?」
クスっと、いじわるに口元を釣り上げて、由良くんの漆黒の瞳が私を捉えた。
「これ、いじょ、」
「───こういうコト」
そういって、ゆっくり彼の唇が近づいてきて───私は思わずぐっと、目を閉じた。
……と、あれ?
もうすでに、10秒以上たっているのに、何も起きない。
どころか、耳の奥で何かを押さえているようなくぐもった声が聞こえた。
な、何だ。
私はそう思いながらうっすら目を開く。
「クッ、く、うっく……っ、」
由良くんが、口元を押さえながらぷるぷる震わせて笑っていた。