氷の魔女とイチョウとモミジと探偵と怪盗
探偵登場!
「そりゃあさ、木の葉を隠すなら森の中とはいうけれど、何も文字通りにジッコーすることないと思うのよね」

黄色く染まった見渡す限りのイチョウの林の真ん中で、スリサズは誰にともなくつぶやいた。

氷の巨人を意味するその名に、風雨に汚れた旅装束姿の、十五歳の少女。

彼女がため息をつく間にも、扇形の葉っぱはヒラリハラリと彼女の周囲に舞い落ちる。



事の起こりは数日前。

この辺り一帯のイチョウ林を所有し、林業公と呼ばれる男のお屋敷に、怪盗セルアと名乗るコソ泥が入り込み、モミジの葉っぱが描かれた黄金のメダルを盗み出した。

屋敷で飼われている犬がコソ泥の臭いを追いかけ、イチョウ林に逃げ込んだ彼女を発見。

しかしあと一歩のところで取り逃がしてしまった。

去り際に怪盗セルアはこう言い残した。

『モミジのメダルはこのイチョウ林の落ち葉の中に隠した! 見つけられるものなら見つけてみろ!』

屋敷の使用人が総出でイチョウ林を捜索したが、メダルは見つからなかった。

セルアが本当にここにメダルを隠したならば、取りに戻るための目印を残していなければおかしいのに、目印どころか目印の手がかりすらもない。

林業公は、セルアが嘘をついたのだと考えて、林の捜索を早々に打ち切った。

セルアだってとっくに別の町に逃げてしまっているだろう。

メダルは林業公の息子のコレクション品で、林業公自身はメダルに興味がなく、息子は材木の取引のために町を離れている。

よって今現在、この林でメダルを探し続けているのは…
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