氷の魔女とイチョウとモミジと探偵と怪盗
スリサズは、少し離れた場所で馬鹿でかい犬と遊んでいるロゼルの方に目をやった。

スリサズの同業者、すなわち流れ者の何でも屋の、赤毛で長身の青年である。

その傍らでは金髪ツインテールの美少女が、心配そうにスリサズの様子を見つめている。

林業公の孫で、メダルの持ち主の娘のブリジットお嬢様だ。

メイドに変装した泥棒を、ブリジットが騙されて屋敷に入れてしまったものだから、父親が帰ってくるまでにメダルが見つからなければブリジットが父に叱られることになるのだ。

(そしたらお嬢様がメダルの発見にかけた賞金もオジャンなのよね)

スリサズは、季節外れ感の漂うチューリップ型のステッキをフリフリし、魔法で風を巻き起こした。

ふわふわかさかさ、軽い枯れ葉が周囲から吹き飛ぶ。

もしここに重いメダルが埋もれているなら、それは地面に残るはずだが、メダルは一向に出てこない。

木の葉は前方に飛び、離れた場所で地面に落ちる。

落ちる場所は、これから探そうとしている場所。

さらに風にあおられて樹上の葉っぱも落ちてきて、まったくもって、はかどらない。

スリサズはもの言いたげにロゼル達の方を見た。

「・・・俺の仕事はこっちだから」

「べ、別に手伝ってほしいわけじゃないわよっ!」

スリサズがメダル捜しでこの林にやってきたのに対し、ロゼルは犬の世話係として雇われている。

若いながらも歴戦の傭兵であり凶暴な魔物と何度も戦ってきた男がわんこのお世話などと聞くとおかしな感じもするが、ブリジットお嬢様の愛犬のキャロラインは、地獄の番犬かと思うような牙と体躯を持つ闘犬。

先日の怪盗セルアを追い詰めたのはこのキャロラインなのだが、しかしそれ以降、何故だかずっと機嫌が悪く、もとの世話係は怖がって屋敷を出て行ってしまったのである。

「・・・メダルだから、円いんだよな」

「そりゃあね」

「・・・ギザギザだったら大変だったな」

「そりゃまあモミジの葉っぱはギザギザだから…って、何でギザギザだと大変なのよ?」

「・・・」

キャロラインがいら立たしげにもたげた頭を、ロゼルが臆することなく優しく撫でる。

「あのさー、ロゼルー。ちょっと思いついたんだけどさー、この辺の葉っぱ全部、あんたの炎魔法で燃やしちゃったら…」

「・・・高温になって金が溶ける」

「むう」

メダルに使われている金の量は林業公の財産からすれば些末なもので、そこに描かれたモミジの文様にこそ歴史的な価値がある。

らしい。

スリサズには良くわからない。
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