氷の魔女とイチョウとモミジと探偵と怪盗
「居たわ! 怪盗よ!」

林にホーミィの声が響いた。

「ホントに!?」

スリサズが慌ててそちらに駆けつける。

背丈のそろった人工的なイチョウ林の中で、遠目にも目立つ、一本だけ飛び抜けて育った大木。

その根元に、いかにも怪しげな人影が、縮こまって身を隠していた。

「何でわかったの!?」

「この杖には、魔法の力が込められているのよ!」

「杖はすごいけど、それって推理じゃないから!」

人影が、逃げるような仕草を見せる。

それはメイド服姿の一見地味な栗毛の少女だった。

スリサズの脳裏を、ブリジットお嬢様から聞かされた話が駆け抜ける。

怪盗セルアは、メイドに変装してお屋敷に潜り込んだ。

「逃がさない! フローズン!」

呪文を唱えつつ、チューリップ型の杖を大きく振り下ろす。

スリサズの得意技の、氷の魔法。

「ひやあああ!?」

メイド服少女の悲鳴が響く。

チューリップの花びらの中から噴き出した無数の氷の粒が、蜂の群れのようにターゲットに襲いかかり張りついて…

メイドの頭部だけ残して全身を包み込み、カチコチに固まり、閉じ込めた。

 
< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop