氷の魔女とイチョウとモミジと探偵と怪盗
「怪盗セルア、召し捕ったりィ!! さあ! 盗んだメダルを出しなさい!!」

氷づけになったメイドにスリサズが詰め寄る。

「わ、わたし、そんなの持っていません!」

脅えているのか氷が冷たいからなのか、メイドが声を震わせる。

「あれ? あんたは…」

ホーミィが眼鏡を指で押し上げて、メイドの顔を覗き込み、何か言おうとしたその時…



「怪盗セルアはどこですの!?」

落ち葉にガサガサと足音を響かせて、ブリジットお嬢様が駆けてきた。

「スリサズさん! どういうことでございますの? こちらのデイジーはわたくしに仕えている小間使いですわ!」

お嬢様が叫ぶ。

「この人、セルアの変装じゃーないの? てゆっか小間使いって何?」

スリサズが首をかしげる。

「主人の身の回りの雑用を専門に行うメイドですわ。髪を結ったり着替えを手伝ったり…」

「着替えぐらい一人でできない?」

「一人では着られないようなドレスもございますのよ! とにかくいつもわたくしの傍に居る係りなのに間違えるわけございませんわ!」

スリサズは、まだ信じていない顔でデイジーの方に視線を戻した。

「だったら何でコソコソしたのよ?」

「ス、スカートが枝に引っかかって破れてしまって…」

「どこが破れてるってのよ?」

「や! 見ないでください!」

そんなやり取りをしている横で、ホーミィがやれやれと肩をすくめる。

そこに…

「ワンワンワンワンワンワン!」

キャロラインが駆けてきた。

「ワン!!」

巨体の闘犬が飛びかかった相手は…

「わわっ! ちょっと待ってストップ! ストップ!」

デイジーではなく、ホーミィだった。

ホーミィはキャロラインに追われてイチョウの大木の周りをグルグル回る。

「ははーん」

スリサズがあごに手を当ててうなずき、チューリップの杖を振り上げる。

「さてはあんたが怪盗セルアだったのね! だからデイジーさんに罪を着せようとしたんだわ!」

スリサズが再び魔法を炸裂させて、ホーミィを氷づけにした。
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