「竹の春、竹の秋」
11.
「もっと。」と、声にならない言葉を指先に乗せてねだったキスを、タクミは惜しみなく薫に与える。鎖骨の窪み、薄い胸のなだらかな傾斜、筋張った腰骨、タクミが探るそこかしこで、薫が思いも寄らなかったものが目覚める。小さな声を上げるたびに、タクミの唇ははそれに答えるように何度もそこを確かめて這った。その唇は言葉を発しない。ただ、息遣いだけで「ここ?」「ここ?」と、尋ねながら這い回って、宝探しをするような愛撫をした。見つからない宝を。求めてやまない何かを。タクミが求めているものを、薫が与えられるものなのだったら、いくらでも与えるのに、と薫は思う。ねだったらねだった分だけ与えられる悦びを、本当に受け止めるべきなのは自分ではない誰かなのにと思う脳裏の一方で、ただ我武者羅にタクミを求めてやまない自分を感じた。そんな自分の強欲さを償うように、薫は、タクミの求めるものを与えたいと思う。タクミが薫に求めて、奪えるものがあるなら、すべて、自分から奪って行っていい、と心から思った。
唇は身体中を這ってタクミの迷い続ける恋心を薫に染み付けていった。タクミが口づける度、薫の身体を巡る血が速さを増して行った。時折響く口づけの音も、そして、タクミが息をつく一瞬の息遣いも、加速度をつけて薫の血を巡らせて、薫は左側の大腿骨の上、その腰骨にじんじんとその血が集まり始めているのを感じた。
「あぁ…!」
と、また声が漏れた。自分が思っていたよりも高かった嬌声。薫は失態に眉を寄せて、指を潜らせていたタクミの頭から右手を放し、唇に当てた。くぐもったのど声が、それでも我慢できずにこぼれてくる。
「出して、声、聞かせて」
と、タクミが切れ切れに言う。求められているのか、許されているのか、と考える間もなく、タクミの唇が薫の内腿を這って、薫はやはり我慢ができずに声を上げた。タクミが伺っている。どこまで求めても与えられることなどないのだと知りながら、それでも、いつしか果てるまで、尽きるまで、そしてその場所をどこまでも求めて行こうとするように、薫の体中をどこまでも弄った。
薫を抱くタクミの強い抱擁も、探る瞳も、躊躇う指も舌先も、長い指が髪を梳く瞬間の切ない微笑みも、何もかもが誰か別の男のものなのだと知りながら、薫はどうかするとそのすべてが自分のものだという気がした。
「ねえ、いい?ここ?」
と尋ねるタクミの掠れた声が薫の官能を深くした。薫が感じて声を上げるたびに、タクミはそれに答えてくれる。そして・・・───
「・・・・さん」
と、タクミが呼ぶ。
「── さん、好き、好き、好き・・・」
熱で浮かされたように繰り返す、その声がぐっと薫の胸を掴む。絞られるように痛い。
この声で呼ばれたい。「カオル」と、呼ばれたい。
『薫、薫、薫』
と、彼の低い艶めいた声が自分の名を呼ぶところを想像する。
タクミの額に掛かった前髪から滴る汗が、薫の目に入った。滲みて痛い。
そして奥深く、猛ったタクミの打つその果てで、薫は意識を手放しそうになるほど深い恍惚を覚える。
もうどうでもいい。
はぜる一瞬にいっそう猛ったものをぎゅっと握って離すものかというかのように、薫はタクミを締め付けた。
唇は身体中を這ってタクミの迷い続ける恋心を薫に染み付けていった。タクミが口づける度、薫の身体を巡る血が速さを増して行った。時折響く口づけの音も、そして、タクミが息をつく一瞬の息遣いも、加速度をつけて薫の血を巡らせて、薫は左側の大腿骨の上、その腰骨にじんじんとその血が集まり始めているのを感じた。
「あぁ…!」
と、また声が漏れた。自分が思っていたよりも高かった嬌声。薫は失態に眉を寄せて、指を潜らせていたタクミの頭から右手を放し、唇に当てた。くぐもったのど声が、それでも我慢できずにこぼれてくる。
「出して、声、聞かせて」
と、タクミが切れ切れに言う。求められているのか、許されているのか、と考える間もなく、タクミの唇が薫の内腿を這って、薫はやはり我慢ができずに声を上げた。タクミが伺っている。どこまで求めても与えられることなどないのだと知りながら、それでも、いつしか果てるまで、尽きるまで、そしてその場所をどこまでも求めて行こうとするように、薫の体中をどこまでも弄った。
薫を抱くタクミの強い抱擁も、探る瞳も、躊躇う指も舌先も、長い指が髪を梳く瞬間の切ない微笑みも、何もかもが誰か別の男のものなのだと知りながら、薫はどうかするとそのすべてが自分のものだという気がした。
「ねえ、いい?ここ?」
と尋ねるタクミの掠れた声が薫の官能を深くした。薫が感じて声を上げるたびに、タクミはそれに答えてくれる。そして・・・───
「・・・・さん」
と、タクミが呼ぶ。
「── さん、好き、好き、好き・・・」
熱で浮かされたように繰り返す、その声がぐっと薫の胸を掴む。絞られるように痛い。
この声で呼ばれたい。「カオル」と、呼ばれたい。
『薫、薫、薫』
と、彼の低い艶めいた声が自分の名を呼ぶところを想像する。
タクミの額に掛かった前髪から滴る汗が、薫の目に入った。滲みて痛い。
そして奥深く、猛ったタクミの打つその果てで、薫は意識を手放しそうになるほど深い恍惚を覚える。
もうどうでもいい。
はぜる一瞬にいっそう猛ったものをぎゅっと握って離すものかというかのように、薫はタクミを締め付けた。