シンデレラは硝子の靴を
悲しいかな。


一度走り出すと、このロールスロイスは、実に座り心地が良い車で。



そう、まるでベットのよう。



安定性も素晴らしく、伊達に高いわけではないと沙耶は思った。


時間は6時を過ぎた所で、眠気を催すにはぴったり。




「早い時間でしたけど、食事は済ませられましたか?」




前からは坂月の問いかけ。




「…う、あ、はい。」




電車内でぐらぐらする人間のように、沙耶は眠気と必死に闘う。




「なら、良かったです。あれ、そういえばこれからの仕事内容、伝えてましたっけ?」




「え?あー…流れ、は…」




坂月の今更なとぼけっぷりにも、ツッこむ余裕なし。

朦朧とした意識の中、沙耶は必死で昨日の記憶を手繰り寄せる。




―確か、朝6時半に石垣の家に迎えに行ってから、出社するというのは聞いた気がする。



あとの詳細は会社で、直接石垣から指示をもらえば良いとのことだった。




「すみません。一個重要なの、伝え忘れていました。」



―いつもこのパターンだな。



沙耶はうつらうつらしながら、落ちるのをなんとか堪える。




「秘書として、朝行う一番最初の仕事は、石垣を起こすことです。」




「……へぇ…そうなんですか……」




―さっき、駿を起こしてきたように、石垣のことも…




「っっはあぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」





あっけらかんという坂月の爆弾発言に、沙耶の眠気も、二億光年先まで吹っ飛んだ。



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