シンデレラは硝子の靴を
「あ、ほら。ここなんですよ。石垣家は。」



声を引っ繰り返して叫んだ沙耶の事など何処吹く風で、坂月は飄々と外に目をやった。



「っ、」



言われて、沙耶も思わず窓に目を向けるが、大きなゲート、と呼ぶに相応しい門があるだけで、家に相当する建物など何処にもない。



両端に警備員が二人立っており、運転手が窓を開けると、「お疲れ様です」と声を掛けてきた。



運転手も同じように挨拶を返す。




暫くして、自動でゲートが開き、ロールスロイスは悠々とその大きな車体を中に進ませた。





しかし、続くのはただ、長い道路。


大きな木が行儀良く立ち並び、沙耶たちを見下ろしているように見える。


今坂月に食ってかかりたかった問題も吹っ飛んで、家は一体何処にあるのだろうと、沙耶はきょろきょろと周囲を見回した。




やがて、家、ではなく、屋敷らしき建物の上部が、前方に見えてくると、さらにもうひとつ、さっきよりはやや小さめの門が出てきた。



ここでも警備員が配置されていて、運転手は先程と同じようなやりとりをした。





―こんな豪邸、日本に存在したのか。




悶々としながら、開いた門の先に目をやった。



そして。




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