シンデレラは硝子の靴を
いつもの定位置に物を構え、沙耶が携帯のボタンを押し終わると―


~♪


どこからともなく、いや、石垣の眠る枕元から、スマホが軽快なメロディを奏で始めた。



その瞬間。



「…うるせぇ…」



いつもの様に目を瞑りながら顔を顰めた石垣が呟き、スマホに手を伸ばす。



―来る!


沙耶はこの瞬間、にやりといつも笑ってしまう。


ヒュッ

カン!

ゴン!


「うっ!!!」



「あははっ、、、おはようございます、社長!」




堪えきれずに沙耶は笑い声を上げた。




寝起きの悪い石垣の為に沙耶が編み出した方法。


一、フライパンを構えたら、石垣のスマホを鳴らす。

二、石垣が寝ぼけながら思い切りスマホを投げ飛ばす。

三、構えたフライパンにぶつかったスマホが跳ね返って石垣の体を直撃する。



以上である。


打ち所は毎回微妙にズレるが、頭か顔か肩か腕か。


まぁ、そこら辺である。



今朝は頬辺りだったらしく、痛みで目を覚ました本人は手でそこを抑えて恨めしそうに沙耶を見た。




「もっと良い起こし方できねぇのかよ?」


「今のが最善でございます。さぁ、早くご支度を!」




にっこりと笑って慣れてきた敬語を使ってやるのも中々面白い。


因みにこの厭味な感じは坂月の伝授による。




「どこか、最善なんだよ!」


「経費削減なので!環境に優しいです。」



なんて言ったってフライパンに跳ね返ったスマホは70パーセントの確率で大破せずに済むのだ。

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