シンデレラは硝子の靴を
「おはようございます、社長、秋元さん。」



会社に到着し、最上階に行くと坂月が笑顔で出迎えた。

坂月のフロアは一階下だが、石垣を起こす沙耶に代わって毎朝彼は先に出社し、空気の入れ替えや清掃のチェック等を行ってくれているのだ。


本当だったらクリーンスタッフによって全て行われているのだから、チェックなんて必要ないのだが。



―偏屈な上司を持つと部下は大変ね。



社長室に入っていった石垣の背中に、沙耶はこっそりと溜め息を吐く。



出社すれば、今度はまず朝の珈琲を石垣に淹れることになっていた。


間違えてならないのは珈琲の豆の種類で。


インスタントなど以ての外。

定期的に煎り立てを仕入れ、その都度ミルで挽く。


更に一日に同じ種類の珈琲を二度、なんて出そうものなら、石垣は飲まない。


朝は酸味が強く苦味の弱い豆。


夜になるに連れ、今度は苦味が強く酸味の弱い豆へ。

という具合に、変化を持たせて淹れなければならないのだ。


一度、酸味と苦味を逆にして出してしまった際の石垣の態度と言ったらひどかった。



そのせいで、紅茶も珈琲も種類が豊富に取り揃えてある給湯室。

なんなら、ここだけでも店が開けそうだ。
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