シンデレラは硝子の靴を
「秋元さん、大分慣れましたね。」



出た所で、坂月が感慨深げに言うので、沙耶はそうですか?と訊き返す。



「そうですよ、なんか、馴染んでますし。」



「うーん…自分が何の為にここにいるのか、わからなくなってきたこの頃です。」



最初の頃はあれだけつっかかってきた石垣も、露骨な嫌がらせはほとんどしなくなってきたし、坂月の言う任務に関係しそうなことも、影を潜めていた。



沙耶は働くことが嫌いではない。むしろ好きな方だ。

秘書、という仕事も始めは全くわからなかったが、やりがいを見出すまでにそう時間はかからなかった。



だからこそ。


どうして自分が、罰というよりは、むしろ快適といっていい環境で、優遇されながらこうして働いているのか。


そしてこれはいつまで続くのか。


近頃、わからなくなってきてしまう。




「物事は複雑に絡み合っています。短期間で解けるものではないでしょう。…そうですね、、せめて半年。半年は、かかると思っていて下さい。」




坂月の言葉で、はっと我に返った沙耶は、はい、とだけ返事をして、印刷室へと向かった。



―貯金が出来るのは半年、か。うん、十分だ。



急に飛び出してきた制限時間を知った沙耶は、なんとなくほっとしたような、不安なような、そんな気持ちに駆られた。
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