シンデレラは硝子の靴を
「人一人居なくなった位で仕事が回んなくなるってことは、それくらいその人が使えるのか、他ができないかのどっちかなんだよ。」


「はっ、なせっ…」


苦しげに顔を歪める男はまだ抵抗を続けている。


「その采配はパートじゃなくて店長の腕にかかってんだよ。ったく、お前みたいな奴が、働く女を駄目にすんだ。あんたもこんな奴に気なんか遣ってないで、とっとと帰りな。子供にとっての母親はあんた一人しかいないんだから。」


何も言い返せない程に締め上げたまま、沙耶は視線だけ女に向けて言う。


「はっ、、はい…」


女がその場を立ち去ると、漸く沙耶は男を解放した。


「げほっけほっ…け、警察!誰か警察呼んでくれ!」


半狂乱になって叫ぶ男を、沙耶は冷めた目をして見つめる。



「何が警察!よ。呼んだらこっちが訴えてやるっつーの。従業員をあんな風に怒鳴ったりして。少しは公衆の迷惑を考えなよ。」



「あんたに関係ないだろう!何様だと思ってるんだ!」



怒りで顔を真っ赤にした男は、被っていた白衣帽を床に叩きつけると、沙耶に飛びかかった。


「望むところよ」



へへ、と笑った沙耶がカモンと手招きした瞬間。



「―そこまで。」





ひょい、と沙耶の身体が脇に避けられ、勢い余った男がダストボックスに派手にぶつかった。

< 242 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop