シンデレラは硝子の靴を
それまで固唾を呑んで見守っていた客達が、ざわつき始める。


「あ、、あれ?」


作っていたゲンコツの標的が無くなって、沙耶は掌をグーパーグーパーしながら首を傾げた。


「…時間なのに戻らないから、何やってるのかと思って捜しに来てみれば…お前って本当に…馬鹿野郎だな…」




呆れた声が上から降ってきて、沙耶は石垣に抱えられていることに気付く。





「げ。あんたっ!!」


今一番会いたくない、いや、見たくない顔ナンバー1の男の登場に、反射的に仰け反った。



「あんた、じゃない。社長、だ。」



じろりと見下ろす石垣の目は真剣だった。



「そして、お前はその秘書だ。時と場所と立場をわきまえろ。今そいつを殴ってたら大問題になる所だった。」



「だって!こいつ従業員を怒鳴ってて、、」



「だってもこうもない。それがルールだ。」



石垣はそう言い終えると、踵を返し、ダストボックス前で蹲っている男に近づく。



「うちのが迷惑かけたね。ただ、従業員の扱い方においては、君の上司に報告しておく。もう少し柔軟性を見せて欲しい。客の面前で恥をさらすようなことはしないでくれよ。」



石垣の顔は知っていたのだろう。

男は無言で頷くと、ぱたりと意識を失った。



「大した怪我じゃないが…救護を頼むか。」



石垣は近くに居た従業員を捕まえて、口早に用件を伝えると。



「急がないと、式典が始まる。」



さすがに項垂れていた沙耶の腕を取って、フードコートを後にした。


沙耶の後姿にはパラパラと、まばらだが拍手が贈られていた。


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