シンデレラは硝子の靴を
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「ねぇ、痛いって」


沙耶は声を上げるが、掴まれた腕の力は緩まない。


成人した女が、ホールまでの道のりを、行き交う人々に好奇の目でじろじろと見られながら引っ張っていかれる事の恥ずかしさといったら、表現の仕様がない。



「私がっ、悪かったですってば。もう別に歩けるし、大丈夫だから放してって!」



周囲には聞こえない程度の音量で、石垣に何度もお願いしているのだが、さっきから少しも聞く耳を持ってくれない。



「もう大人しくしてるからっ」



エレベーターホールに来てやっと立ち止まった石垣に、そう言った所で、タイミングよくチン、と到着の音が響き、また腕を引っ張られる。



家族連れやカートで混雑して、奥へと詰めていけば、腕を掴まれたまま、自然と横並びになり、仕方なく沙耶は口を噤んだ。


これだけ至近距離だと、ひそひそ訴えても周囲に聞こえてしまうだろうと思ったからだ。



しかし―。


最上階にはホールしかない。

通常の客は、ほとんどそこに向かわない。

特に沙耶たちと乗り合わせた人々の中には、セレモニーの参加者は一人も居ないようで、皆が皆、ラフな出で立ちだった。



予想は的中し、最上階になる前に、あっという間に沙耶たちだけとなった。


これで放してと言えるぞと、沙耶が意気込んだのも束の間。



バン!


という音だけが響き、背中に鈍い痛みを感じるまで、自分に何が起きたのかわからなかった。








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