シンデレラは硝子の靴を
挨拶や祝辞云々が一通り終わり、関係者達が歓談する中。
沙耶だけ、そろりとその場を後にしよう、いや、ずらかろうと動いていた。
お腹は鰻のおかげでいっぱいだったし、タッパーは忘れたし、見つかれば確実に怒られるし、居て良い事は何一つなさそうだ。
不審な動きでそそくさと扉から出て―
「―おい。」
「げ。」
ホール外のフロアの柱に寄りかかって、腕組みをしながらこちらを見ている男、ひとり。
「げ、じゃねぇよ。そんなこったろうと思ってた。」
頬の湿布を厭味ったらしく擦り、石垣は固まる沙耶に近づいてくる。
「誰かさんのおかげで、とんだ恥かいたぜ。」
「あれは、、そのぉ、、正当防衛と言います。」
後退しながら訴えるも。
「何が正当防衛だ。ったく。早く来い。下のセレモニーにも顔出すことになってる。」
「ひっ」
がしり、手首を捕らわれて。
またしてもひきずられる格好になった。
「いいいいいいきますって、逃げませんから!だから、その、この、手を放していただけませんか!?」
「信用できねぇ」
懇願する沙耶を振り返ることすらせずに、石垣は言い捨てて、頬に貼った湿布を剥がした。