シンデレラは硝子の靴を




挨拶や祝辞云々が一通り終わり、関係者達が歓談する中。


沙耶だけ、そろりとその場を後にしよう、いや、ずらかろうと動いていた。


お腹は鰻のおかげでいっぱいだったし、タッパーは忘れたし、見つかれば確実に怒られるし、居て良い事は何一つなさそうだ。


不審な動きでそそくさと扉から出て―



「―おい。」


「げ。」


ホール外のフロアの柱に寄りかかって、腕組みをしながらこちらを見ている男、ひとり。



「げ、じゃねぇよ。そんなこったろうと思ってた。」



頬の湿布を厭味ったらしく擦り、石垣は固まる沙耶に近づいてくる。



「誰かさんのおかげで、とんだ恥かいたぜ。」



「あれは、、そのぉ、、正当防衛と言います。」



後退しながら訴えるも。



「何が正当防衛だ。ったく。早く来い。下のセレモニーにも顔出すことになってる。」



「ひっ」



がしり、手首を捕らわれて。


またしてもひきずられる格好になった。



「いいいいいいきますって、逃げませんから!だから、その、この、手を放していただけませんか!?」



「信用できねぇ」



懇願する沙耶を振り返ることすらせずに、石垣は言い捨てて、頬に貼った湿布を剥がした。
< 247 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop