シンデレラは硝子の靴を
―やっぱり寝惚けてただけか。損した…
無駄に跳ね上がった心音に、少し肩を落とす沙耶。
「はっ!いやいや、損とかないし。」
力が抜けた石垣の腕は、今や簡単に解けた。
身を起こして、石垣の寝顔を見つめる。
―もしも。
激レアな石垣のスマイルを思い浮かべながら。
―もしも、あんたがあの子だったとしても。
思い出の中の男の子に、それを重ねた。
―もしも万が一、あの約束を守ろうとしてくれていたとしても。
沙耶は自分の鞄を石垣の顔の前に構える。
―もしも、私が『さぁちゃん』だと気付いているとしても。
おもむろに携帯を持ち、番号を表示すると通話ボタンを押した。
直ぐに石垣の脇にあるスマホが騒がしくなる。
予定通り、石垣の眉間に皺が寄り手がスマホへと伸びていく。
ヒュッ
バン
ガッ
石垣の手から発射したスマホは、沙耶の構えた鞄に跳ね返って、主の顎に直撃した。
「うっ…」
顔を顰めて今度こそ目を覚ました石垣に、沙耶はにっこりと笑顔を貼り付けた。
―思い出は、思い出のままで。
現実は、子供の頃考えていたような、簡単なものじゃない。
敢えて答え合わせはしない。
だって金持ちとは相容れない。
「おはようございます、社長。やっぱり飛距離はフライパンの方が断然良いですね。」
―私はあんたとは逢ってない。
だから。
用が済んだら、今度こそ。
二度と交わらないように、生きていく。
―あんたと私は、違い過ぎる。
あの頃はそんな事。
考えてもみなかったけれど。