シンデレラは硝子の靴を
力なくベンチに座り込んだ沙耶の隣に、坂月も静かに並ぶ。



「―頼れば良いじゃないですか…」




気付けば、口を開いていた。



「―え?」



沙耶の問い返しに、坂月ははっとして、自分の失言に気付く。



「あ、いえ…社長…に相談されてみてはいかがですか?もしかしたらもっと良い治療が受けられるかもしれませんし…」




取り繕うようにして石垣の名前を出せば、沙耶の表情に動揺の色が広がる。




「―最初はあいつにだけは屈したくないって思ってましたけど…今も、特にこのタイミングでは、、絶対に頼りたくないです。」




空気を察した坂月は、そういえば、と思い当たる。


最近の沙耶は、石垣と距離を開けているような気がする。


表面上は以前と同じように接しているように見えるのだが。



「社長と―」



気にしないように努めてはいたが、石垣と沙耶の間には『いつか』のことがある。



それがはっきりしたのかどうか。


実際はずっとひっかかっていた。


弱っている彼女にこのタイミングで訊ねることが、正解なのかどうかは判りかねるけれど。




既に言葉を発している最中から後悔の味が込み上げるが、もう戻れない。




「何かあったんですか?」




さっきは感じなかったアルコールの香りが鼻を刺激した。
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