シンデレラは硝子の靴を
ふらりと持ち上がった沙耶の視線が、一度坂月と絡んで、直ぐに下げられた。




「何か…かぁ…」




自嘲するかのように落ちる乾いた笑いが、何故か苦しい。



「誰にも頼ってないって…ずっと言いきかせてきたつもりだったのに…、気付いちゃったんですよ、私。自分が思い出に頼り切っていた事に…」



「思い出?」



小さく繰り返せば、沙耶は頷いて、どこか遠くを見るような目つきになった。



「父が亡くなって家を追い出されるまで、母も駿も私も、、祖母や叔母からすっごく嫌われてて…小さい頃から毎日苛め抜かれてて、、そんな時に、偶然出逢った男の子が居たんです。」



核心を衝いた事実に坂月の顔がどうしても強張る。




「ほとんど記憶には残ってないし、顔も名前も覚えてないですけど―、すっごい優しくて。その子になら、泣き言を言ってしまっても、自分が許せました。接した期間はすごく短くて、直ぐにいなくなっちゃったんですけど…約束してくれて。」



そこまで言うと、沙耶の顔が少しだけ綻んだ。




「迎えに来てくれるって。傍に居て守ってくれるって。」



おかしいでしょう?と沙耶は坂月を振り返った。



「小さい頃の結婚の約束とかなんてよくある話だし、私だって信じてた訳じゃない。けど、、辛い時に出てきて、思いの外支えてくれてたんです。あれがあったから頑張れた。」



夕方には少し早い病院内は、夜とは違う静けさに包まれて居て、沙耶の声がはっきりと坂月の耳に届く。








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