シンデレラは硝子の靴を
沙耶たちがこのボロい木造二階建てアパートに越してきたのは、1年前のことだ。



本家に居た沙耶達が、祖母や叔母から疎まれていたのは事実だが、間を取り持つようにしていた父が他界したと同時に、文字通り追い出されるとは思っても見なかった。


半分とはいえ、血は通っているのだ。



なのに、僅かな遺産も奪われ、ほぼ無一文で家を出された。



同時に元々病弱だった母の体調も悪化し、今は近くの病院で入院生活を送っている。




現在は高校生の弟と二人暮らしだ。




あどけない顔をしてよだれを垂らす愚弟は17歳になったばかりで、あと1年は養っていかないといけない。


大学に行きたいというのであれば、自分のように我慢させたくはない。





母の医療費と、弟の学費、それから、日々の生活。



それだけで、沙耶の毎日は手一杯だった。




―今日の予定は、っと。




気持ちを切り替えるようにして、沙耶は頭の中で今日のスケジュールを組み立てる。





現在沙耶はバイトを4つ、掛け持ちしている。



本屋、コンビニ、ファミレス、薬局…



でも、今日はその全部を休んで、単発の仕事を入れていた。




かなり時給が高いうえに、一日限りだったので、一も二もなく飛びついたのだ。
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