シンデレラは硝子の靴を
―失敗だったか。



飽きるのにそんな時間はかからなかった。


それでも直ぐ戻るのは癪だから、持っていた小銭で、自販機でジュースを買ったりしながら、ぶらぶらと当ても無く歩き回った。




「あれ…」




そして見つけたのだ。


大きな竹林。


それを囲う塀際には、大きなブナの樹が何本かあった。



山や林は近所にも幾つか見られるが、どれも立ち入り禁止区域のように鉄線で囲われていて中には入れない。



だが、今目の前にある塀はコンクリで、少し頑張れば乗り越えられそうな気もしないでもない。



―誰かの家かな?どこか登りやすそうな所とかあるかな。



興味が湧いた諒は、取り囲む塀をぐるりと見て歩く。




「ラッキー」



やがて、塀の崩れた部分がボロリと傍らに転がり、大きく口を開けている―ちょうど諒くらいの背丈であれば少しかがめば入れる位の―箇所を発見。


迷うことなく、諒はその隙間に体を滑り込ませた。




「やっと面白くなってきたな。」



重なる枯れ葉が、洋服にくっつくのを振り払うこともせず。



諒はにやっと笑うと、ひとまず広がる謎めいた景色を仁王立ちで眺めた。


実際は、これっぽっちも謎めいてなんか居なかったのだが、当時の諒にとっては、かなり不思議な世界で、自分はそこに迷い込んだつもりでいた。



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