シンデレラは硝子の靴を
管理人の話は、沙耶達がもう居ないような口ぶりだった。


嫌な予感を振り払い、不可解な沙耶の言伝に首を捻る。




―そんな約束したか???



三ヶ月前、マンションに対して何か言った覚えは無かった。



―忘れてるだけか…?



エレベーターから降りて、足早に玄関ポーチまで向かい、鍵を取り出す。


逸る思いが、差込口に向かう鍵を震えさせ、邪魔をした。




―落ちつけ。



軽く舌打ちして短く息を吐くと、一度下ろした腕を再び持ち上げた。



今度はきちんと差し込まれ、直ぐに回すと転がるようにして中に入った。




「ちっくしょ…―」




直前まで抱いていた淡い期待は、ものの見事に砕け散った。




部屋は空っぽだった。




いつも。





あと少しで間に合わない。





彼女は行方を暗ましてしまう。




ガン、と壁に八つ当たっても、虚しさが跳ね返ってくる。



―じゃあ、何の点検だよ。




自分が居なくなったことを、諒に伝えてどうするつもりだったのか。



握りつぶしてしまわないようにそっと追いかけていた蝶が、寸での所で身を翻し逃げていくような感覚。




ヒラヒラヒラと高い空に舞う。



残るのは、虚無感。
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