シンデレラは硝子の靴を
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母親の火葬を終えた後。



一人で、小高い山に登った。



大人からすればただの高台。



子供だった諒からしたら山。




その頂上には金木犀が咲いていて、秋の哀愁を漂わせるのに一役買っていた。




『あ。』



先客が居たのに驚いて諒は思わず声を上げる。




『さぁちゃん、こんなところで何やってるの?』




まさか、外で会うなんて思ってもみなかった。


さぁと会えるのはいつも竹林の中でだけだと決め付けていた。


それにしたって、よりによって、どうしてこんな日に―。




『あんたこそ、何してるのよ―』





さぁは今しがた手折ったばかりの金木犀の枝を手にしたまま、諒を見つめた。



諒は片手に百合の花。そしてもう片手にはシンデレラの絵本を抱えていた。




『お母さんが、死んじゃったから、お別れしたんだよ』




精一杯強がって笑ったのに。



一瞬の間の後。




『そうなんだ。じゃ、あんたも泣けば良いよ。』



さぁは諒にそう勧めた。


まるで簡単なことだ、とでも言うように。




―そんなの、できるわけない。



自分は石垣家の跡取りだ。


人前で泣くこと等、許されない。



首を横に大きく振った。




『駄目だよ。僕は男だから。それに泣いたって、何にもならない。何も戻らない。』




そう言って、意志を貫こうともう一度笑う。



さぁはそんな諒から目を逸らして、金木犀に向き直った。





『ここには誰も居ないから、泣いたって誰も見てないよ』



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