シンデレラは硝子の靴を
なんだよ。



なんなんだよ、この女。



人の事嫌いって言う癖に。




こないだなんか、再チャレンジして、仲間になって貰う為にやや脅迫めいた勧誘をしたら、馬鹿呼ばわりされて、『あんたなんかに屈しない』とまで言った癖に。




『っくっ』




駄目なんだよ。


弱さなんかつけ込まれるだけなんだよ。


食うか食われるかの世界で、生きていかなくちゃならないのに。



何かを沢山持っているっていうことは。


何かを同じくらい失っているってことなんだ。




心は警告を発しているのに。




身体は震えながらも我慢しようとしているのに。



金木犀の香りが、内奥を揺らして揺さぶって、あっためる。




だから。




『う―…』





百合の花を持ったままの右手で顔を隠して。




母親が亡くなってから初めて、泣いた。




さぁは、そんな諒に背を向けて、ひたすら金木犀の花を散らしていた。



ただ、黙って。





―いつもと…逆だな。



泣きながらそう思った。



傷だらけで泣くさぁのそれと、自分のこれは、全くの別物だということはわかっていたけれど。



さぁはいつも強いから。



自分なんかと違って強いから。



いつも泣き終わればすっきりと笑う。



内に秘めた強さは、密かな憧れを諒に抱かせた。




自分もああなりたい。


そしていつか、自分の手でこの子を守りたい、と。



< 336 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop