シンデレラは硝子の靴を
夕焼けの朱に空が染まる頃。



涙が止まったのを確認すると、諒は気まずそうにさぁを見た。



いつの間にかさぁはしゃがみこんで、金木犀の枝を片手に地面をいじっていた。






『あの…』




なんとか声をかけてみるものの、恥ずかしさもあって何て続けて良いかわからない諒は言葉に詰まってしまう。





『シンデレラ』




『え?』



そんな空気を払拭するかのように、突然さぁが立ち上がった。




『シンデレラ、好きなの?』




そうして、諒が抱えている本に目をやる。




『あ、あぁ―好きって言うか…お母さんのだから。』




男の癖にと馬鹿にされてはたまらないと思って、諒は母の持ち物だということを強調した。





『あんたのお母さんは好きだったんだ、シンデレラ。』




さぁは諒の言葉を継いで、言った。





『わからない…どうだったんだろ。』





首を傾げた諒にさぁは呟く。





『私は嫌だな。シンデレラみたいにお城に行くの。』




『―え?』





俯いて草むらを足でつつくさぁの髪が茜色に染まる。





『それに、硝子の靴を履かないとわからないなんて嫌だな。』





言いながらさぁは靴を片方脱いで見せた。




中から少しの砂が落ちて、風に吹かれる。





『王子様はお姫様の顔、思い出せなかったのかな。』




『あ…、僕もそれ、思った。』




『ほんと?』




『うん』




頷くと、さぁは出逢ってから初めての笑顔を見せた。



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